Q:限定承認とは何ですか?

A:限定承認とは、専門的には「相続財産の限度でのみ被相続人の債務・遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認するという、相続人の意思表示」(民法922条)ということになります。何とも分かりづらいですね。

できるだけ簡単に説明しますと、「故人に借金などマイナスの財産があった場合でも、相続人は故人のプラスの財産の範囲でこれを支払えば良い」、「その結果、最終的にプラスの財産が余れば、これを相続できる」制度だということです。

故人の財産関係が複雑ではなく、死亡時点で、明らかにマイナスの財産が多いことが分かる場合には、相続放棄を、逆にプラスの財産が多い場合は単純承認をすれば足ります。

一方、故人の生前の財産関係が複雑であり、相続放棄の申述期間である被相続人(故人)の死亡後3か月の間に、きっちりと財産の調査をした上で、プラスの財産とマイナスの財産の果たしてどちらが多いのか、明確に判断できない場合があります。

例えば、故人が生前会社や自営業を営んでおり、預貯金以外に株式、不動産、その他自動車などの動産や、顧客に対する債権等、様々な財産を持っていた一方で、多数の金融機関や取引先、従業員などに対して様々な債務も負っていたというような場合です。

このような財産関係が複雑な場合に、限定承認を利用すれば、遺産を調査した結果、最終的にマイナスの財産が多くなったとしても、相続人はプラスの財産の範囲で返済をすれば良いので、相続人が自腹でマイナスの財産を返済する必要はありません。これは、単純承認後、遺産のマイナス部分が残る場合には、引き続き、相続人が自分名義の預貯金や給与等から自腹でマイナスの財産を返済しなければならないのと比べて大きなメリットです(返済できない場合、最悪、自己破産等の債務整理を検討する必要も生じます)。

逆に、遺産の調査の結果、最終的にプラスの財産の方が多くなれば、相続人はこれを相続することができます。これは、相続放棄をした場合、後からプラスの財産があることが判明しても、相続人がもはや相続することができないのと比べて大きなメリットです。

つまり、限定承認は、単純承認と相続放棄の良いとこ取りのような便利な制度なのです。

しかし、便利な制度であるにもかかわらず、現実には、限定承認は、余り利用されていないのです(最高裁判所の司法統計によれば、平成19年から平成28年の10年間に、毎年全国で800~1000件程度しか利用されていないことが分かります)。

なぜか。それは、限定承認の手続きがとても複雑だからです。下記では、簡単に限定承認の手続きを説明しますが、結論から申し上げると、余程、遺産の種類や額が少ないといった例外的なケースでない限り、限定承認の手続きを一般の方が自力で進めて完了することは、限りなく不可能に近いと考えていただいた方が良いと思います。

当事務所にも、最初は自分達で限定承認の手続きを進めようとしていたものの、色々調べたり、聞いたりするうちに挫折してしまい、ご相談に来られる方がほとんどです。

限定承認の利用をお考えなら、最初から弁護士にご相談されることをお勧めします。

Q:限定承認の手続きの流れを教えて下さい

A:限定承認のおおまかな手続きの流れは以下の通りです。

前提条件:相続人が複数いる場合は、相続人全員で限定承認をすること

限定承認は、相続放棄とは違い、相続人が複数いる場合は、相続人全員でしなくてはなりません。相続人の内の誰か一人でも反対すれば、限定承認は利用できないことになります。相続人同士で足並みがそろわないことも多く、この条件がある時点で、すでに限定承認の利用はハードルが高いともいえます。

1.家庭裁判所に対する限定承認の申述

ご家族が亡くなったことを知った時から3か月以内に、ご自分と亡くなった方の戸籍謄本、亡くなった方の住民票の除票を用意して、家庭裁判所にある限定承認申述書に必要事項を書いて提出するのは相続放棄と同じです。限定承認は、これに加えて、財産目録を作成して提出しなければなりません。財産目録とは、亡くなった方のプラスの財産、マイナスの財産を漏れなく調査した上で、どのような種類の財産がいくらあるのか等、財産についての重要な事項を記載した書面です。

→故人の遺産が預貯金と現金、住宅ローン程度であれば、調査は比較的容易ですが、生前の取引先や関係金融機関の数が多く、他人の保証人にもなっていた等、財産関係が複雑な場合はもちろん、株式や不動産だけでなく、自動車、貴金属、金塊などを持っている場合にはこれらの価格の評価も必要となるなど、この財産目録の作成が中々大変です。しかも、財産目録の記載を故意に書き漏らすと、限定承認ができなくなるので注意が必要です。

なお、相続財産が多いため、3か月以内に、財産の調査が出来そうにないという場合などは、家庭裁判所に事情を申し立てれば、3か月をという期間を延長してくれることがあることや、3か月の間に亡くなった方の遺産を使ったり処分したりすると、遺産のすべてについて相続すると認めたことになってしまい、その後に限定承認することができなくなることは、相続放棄の場合と同じです。

2.清算手続き

⑴公告
上記2の手続き完了後、5日(相続財産管理人の選任があった場合は選任後10日)以内に、故人が借金を負っていた金融機関や個人(相続債権者といいます)等に対して、限定承認をしたことと、最低でも2か月の期間を設けて、この間に、故人に対していくら金銭を貸していたか等(債権の届け出)を申し出てもらうように、公告をしなければなりません。

→この5日以内の公告というのが、中々シビアです。期間も短いですし、そもそも、公告は、官報を使わなければなりませんが、官報を使うには、自分で最寄りの官報販売所(本当にこういう名称です)に手数料(一般的な相続でも数万円します)を支払って、必要事項を官報に掲載してもらうように段取りをしなければなりません。裁判所がこの手続きをしてくれるわけではないので注意が必要です。

⑵債権者等への弁済
⑴で故人に対する債権を申し出た債権者(故人に対して金銭を貸していた金融機関・個人など)等(厳密には受遺者も含むのでこう書いております)に対して、それぞれの優先順位や債権額の割合に応じて、借金等を返済しなければなりません。

→債権者が多数存在する場合でも、これらと逐一自分で直接電話や書面で連絡をとって、返済をしていくことになりますが、これも大変面倒です。さらに、債権者間の優先順位や債権割合に違反して返済をしてしまうと、これによって損害を受けた者から損害賠償を請求されることになります。そもそも、この返済は、故人の遺産の中から行いますが、遺産の中の金銭で、返済が間に合わない場合には、不動産や自動車などを売却した上、金銭に換えなければなりません。しかし、これも自分で勝手に業者に売って金銭に換えることはできず、民事執行法上の競売手続きによらなければならないなど、この段階の手続きはとにかく面倒です。

3.相続人への分配

以上のような困難を乗り越えて、プラスの財産が残った場合に、ようやく相続人がこれを取得することができるのです。

限定承認が便利な制度であるにもかかわらず、余り利用されない理由がご理解いただけたでしょうか。

我々弁護士の感覚的にも、限定承認の手続きは、規模は違っても、破産手続きにおける破産管財人の業務に似ていると感じます。それゆえ、一般の方に難易度が高いのは当然です。

しかしながら、限定承認の結果、遺産がプラスになり、実際に弁護士費用やその他手数料を差し引いてもかなりの額を相続される方がおられるのも事実です。

現実に利用するかどうかはともかく、事情によっては、十分検討の価値がある制度だと思います。